とあるニュースから、「忖度」という言葉がずいぶん注目されましたね。
この件についてはニュース等の報道で皆さんもご存知のことでしょう。
ここでは、その件を取り上げることはしません。
ただ、この「忖度」は、私たちの身近なところで大変飛び交っています。
ビジネスや業務上の意思決定の場面でも「忖度」って出てくることがあります。
しかも、多くの場合、あまりよろしくない場面で出てきます。
「忖度」とは、デジタル大辞泉によれば
[名](スル)他人の心をおしはかること。「相手の真意を忖度する」
と出てきます。
早い話が、偉い人が言う
「良きに計らえ」
って奴ですね。
◆「忖度」の背景にあるもの
これ、特に外資系企業では通用しません(看板だけ外資で、中の人はゴリゴリの内資って人もたくさんいますが、ここで言う外資系とは、中身まで外資系の人を指します)。
それは、言語や文化、テキストが違うからですよね。
「忖度」という言葉自体、英語に極めて翻訳しにくい言葉ですね。
先般、某学園の何某という人が、外国人記者クラブでの会見時に「忖度」という言葉を使ったところ、同時通訳の人がそれまで流暢に訳していたのに、「忖度」という発言に突然訳せなくなり、「忖度という言葉が英語に無いので・・・」とお詫びしたシーンがTVにも流れていましたね。
皆さんご存知の通り、日本は阿吽の呼吸とか、場の空気を読むとか、相手の心情を察するとか、そういうコミュニケーションを好みます。
いわゆる、ハイコンテクスト文化というやつです。
一方、欧米は厳密に言語を操り、自分の意志を明確に相手に伝えようとします。場の空気なんて読みません。
オフィス内が暑かろうが寒かろうが、周りから「室温を調整してくれ」と言われなければエアコンの調節もしません。具体的な指示がなければ、動かないんですね。
これは、ローコンテクスト文化といわれます。
これらについては、様々な書籍がありますが、私のおすすめは下記の本です。
ご興味がある方は是非ご覧ください。
異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養
で、ここからが本題なのですが、「忖度」とは、究極のハイコンテクストのスキルの一つといえます。
何しろ、具体的な指示や意見など何もなく、「良きに計らえ」なのですから。
こんなことを言われたら、部下や周囲の人たちは、それまでの話の文脈から類推するしかないわけです。
◆「忖度」のデメリットとは?
「こういうことかな?」「もし間違ってたら、どうしよう・・・」などと独自に詮索しなければならず、余計な心労が重なり、疲れも具体的な指示やゴールが提示されている時よりも遥かに疲れます。
これは、その組織の上長に、部下への配慮が足らない証拠です。
組織の上長が、部下を過度に疲れさせてどうするの?
組織の戦力を高めるのが、組織の上長の役目でしょ?
◆「忖度」の裏側にあるもの
「忖度」は、部下を疲れさせるだけではありません。
場合によっては、企業のコンプライアンスに関わることも出てきます。
例えば、上長が
「俺の口からは言えないよ」
「俺の立場も察してくれ」
等という場合は、その上長は、もっと上位の偉い人から
- 穏便に、外部にも社内にも情報が漏れないように、問題として世間を騒がせることなく、つつがなくこの極秘ミッションを成功させろ
などと指示されていたりします。
こういうことは、その背景にはビジネス上グレーな取組み(場合によっては完全にアウトだったり・・・)が要求されたり、コンプライアンス的に嫌疑をかけられるようなことだったりします。
社会に貢献できる素晴らしい仕事であれば、極秘にする必要はないですからね(競合のライバルにアイディアを盗まれるなどの対処としての極秘ミッションなら、話は別ですが)。
ですから、外資系企業での仕事で契約を締結すると、契約書がものすごく膨大だったりします。
これは、「こういう場合は、どちらがどのように対応するのか?」ということに誤解や歪曲が生じないように、スムーズに事が進められるようにするためです。
契約書とは、お互いのビジネス上のマニュアルでもありますから。
◆ビジネスから「忖度」がなくなったとしたら?
ビジネスは、様々な指示が行き交い、それによって相手が動くことで進みます。
だから、相手に誤解や歪曲を生じさせないように
- 具体的な指示を
- 5W1Hに則って
- その業務のゴールを明確にし
- 途中のトラブルが起こったときの対処も交え
取り組む必要があるんです。
こういう具体的な指示をするから、こちらの考えどおりに仕事が進むんです。
複数のメンバーやチームで仕事をする際、こちらが思ったとおりの成果が上がらないのは、指示を出した人の指示の仕方が悪いということも理由です。
相手(顧客など)への配慮や心遣い、マナーは必須ですが、それは担当者としての取組みの話であって、上長から言われる「忖度」は、ビジネス上本当に必要なのか、私は疑問に思います。
◆「忖度」から見え隠れする、上長の器の大きさ・管理職としての適性・信用度
ある仕事に際し、もし上長が
「俺の口からは言えないよ」
「俺の立場も察してくれ」
などと言ってきたら、そしてそれが資料になっていない、口先だけの指示や命令だったら、何かトラブルが起きても、上長は責任を逃れられますから、本当に気をつけたほうが良いです。
こういう上長は、部下に責任を擦り付け、自身の保身に走るので、信用なりません。
だから私は、仕事をする上で「忖度」を大切にする相手とは、あまり関わらないようにしています。
ビジネスにはたくさん必要なものがありますが、指示命令系統ということでは、「確実さ」と「明快さ」と「正しさ」は欠かせません。
これらが欠けないように、きちんとした指示を出さなければならないのです。
そこには、「忖度」は、入る余地がないんです。
「俺の口からは言えないよ」
「俺の立場も察してくれ」
なんてことを平気で口にするような輩は、たとえ管理職に就いていたとしても、管理職じゃないんです。
自らを管理職としての立場を取って仕事をするなら、こういういい加減な仕事や取組みは、出来ないはずなんです。
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